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大阪府吹田市・豊中市・箕面市の皆さん。こんにちは。
院長の福間です。
前回は腫瘍認定医1種の試験に出てきた病気から、犬のリンパ腫を取り上げました。
今回も同じく認定医試験に出てきた病気として、犬の口腔内メラノーマを取り上げたいと思います。
また当院で新しく始めた、犬の口腔内メラノーマに有効な治療法である電気化学療法は、下記のページで詳しく解説しています。
当院も日々の診察の中で、「口に何かできているみたい。腫瘍じゃないよね?」という相談を受けることは少なくないです。
では実際に犬の口に出来物ができているのを見つけた時に悪性の腫瘍をどの程度疑えばいいのでしょうか?
病理組織検査(手術で摘出したもの検査する手法)でのデータをまとめたものだと、
非腫瘍性病変:39%
良性腫瘍:22%
悪性腫瘍:34%
その他:5%
(Veterinary oncology vol8, 2016)
という報告があります。
(これは病理組織検査として提出されたものの割合なので、良性腫瘍や非腫瘍を疑うものやあまりにも小さいものは検査に提出されていないものもいると考えるので、非腫瘍や良性腫瘍は過小評価されている可能性もあります)
正直なんとも言えないデータではあるのですが、口の中にしこりを見つけた時に悪性腫瘍である可能性は50%以下ではあるので、ショックを受けるには数字はめちゃくちゃ悪くはないのでまずは落ち着いて動物病院に相談されるのがいいかと思います。
※メラノーマの写真ではないです。
メラノーマは悪性黒色腫のことを指します。
体のメラニン色素持っている細胞が腫瘍化したもので、皮膚、口、目などメラニン色素の存在する部位に広くできる腫瘍になります。
実は犬の口の中にできる悪性腫瘍の中で一番発生率が高いのが、このメラノーマになります。
犬の口腔内メラノーマの発生率は、口の中にできる悪性腫瘍の67%を占めます。
つまり、「口の中にガンができたんです。」という犬の2/3はメラノーマということになります。
(ちなみに話がそれますが、猫の口の中にできる一番多い悪性腫瘍は「口腔内扁平上皮癌」です。その割合は、猫の口にできる悪性腫瘍の中で57%を占めます。動物によって腫瘍の出来やすさやできる腫瘍の種類はかなり変わるんです。)
次に犬の口腔内メラノーマの特徴を説明していきます。
ミニチュア・ダックスフンド、ラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバー、シー・ズーが、口腔内メラノーマのできやすい犬種として報告されています。
実際の見え方としては、
・盛り上がるような変化
・黒い色素が腫瘍の全体もしくは一部に見られることが多い
・大きいものでは出血、潰瘍化していることも多い
だと思いますが、これらは見慣れないと判断が難しいとも思います。
実際の写真を載せますが、苦手な人は飛ばしてスクロールしてください。
また先の特徴としては書いたものの、口腔内メラノーマの1/3は黒くないということも報告されており、黒くないからメラノーマじゃないという言い方はできないとも思っています。
一般的にメラノーマは転移しやすい腫瘍として知られていますが、犬の口腔内メラノーマも転移率は高い傾向にあります。
リンパ節転移は74%で見られたとする報告もあり、ステージや悪性度によるものの転移は警戒する必要があります。
次は犬の口腔内メラノーマに対しての治療を話します。
犬の口腔内メラノーマへの治療は、
・外科治療
・放射線治療
・化学療法
が挙げられます。
メラノーマへの治療の基本はやはり外科手術になります。
口の場合は、周りに喉、鼻、眼など重要な臓器があり、また外観の変化を心配して積極的な外科手術が難しい領域でもあると思います。
ただ口腔内メラノーマの中でも悪性度の低いものは、外科手術だけで完治ができるケースもあるので、時には完治を目指して積極的な外科治療を提案することもあります。
また完治を目指す場合は、リンパ節への検査やリンパ節切除を積極的に行います。
口腔内メラノーマへは放射線治療を行うこともあります。
放射線治療の出番としては、
・外科手術後の補助治療として
・手術ができない症例の疼痛緩和として
・手術ができない症例のQOL改善(腫瘍が大きくて食事が取れないなど)
だと思います。
放射線治療の良い点は、手術と違い侵襲が少なく副作用も少ないことがあります。
欠点は、費用が高いことと、実施できる施設が限られていることです。
私たちも、放射線治療の提案をするときはこの欠点の部分でいつも悩みます。
口腔内メラノーマへは化学療法を行うこともあります。
ただ、正直効果は限定的だと思っています。
適応の場面は、
・手術の後の補助治療として
・手術や放射線ができないが、できることを何か一つでもしたい場合(有効性が低いことはご理解いただきます)
だと思います。
実際に手術をせずに化学療法(カルボプラチン)を行った場合、
変化が見られたのは1/3ほどとする報告があります。
犬の口腔内メラノーマはその転移率などから、治療が難しい腫瘍の一つであることは間違いないと思います。
そんな中で、犬の口腔内メラノーマに対して新しい治療も出てきています。
これはすでに海外で使われている薬で、サイズの大きなメラノーマや近くのリンパ節に転移を起こしているもので、外科手術を行った後に使うお薬です。
副作用が少なく、外科手術だけで治療したものよりも再発が予防できる可能性が報告されています。
実際に外科手術のみの場合と外科手術+メラノーマワクチンの場合で比較すると、死亡率が明らかに下がることが報告されています。
これは日本国内で犬用に研究されているもので、免疫チェックポイント阻害薬と言って比較的新しい考え方の薬になります。
人医療で複数の薬で有効性が報告されており、今後の獣医療においても大きな変化を起こす薬の一つだと思います。
(有名な話だと、2018年に本庶さん「オプジーボ」という免疫チェックポイント阻害薬を開発したことで「ノーベル医学生理学賞」を受賞しました。)
一部の報告では犬の口腔内メラノーマへの有効性が報告されており、今後に期待しています。
また当院で新しく始めた、犬の口腔内メラノーマに有効な治療法である電気化学療法は、下記のページで詳しく解説しています。
最後になりますが、犬の口腔内メラノーマは長生きできるのかという話になります。
結論から言うとかなり厳しいと言うのが現状の答えだと思います。
実際に生存期間中央値(100頭の病気の犬がいた時にその半分がなくなるタイミング:平均値の代わり用いるもの)で表すと、
無治療:2.2ヶ月
緩和的な外科手術:4~6ヶ月
積極的な外科手術:12ヶ月
と言う数字で表すことができます。
もちろん、「だから治療を諦めましょう」と言う話ではなく、早期発見と状況を見極めての積極的な治療介入が重要だと考えています。
(先にも話しましたが、積極的な手術で完治ができる症例がいるのも事実です!)
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ESSE動物病院 院長 福間
大阪府吹田市青山台2−1−15(北千里駅から徒歩8分)
駐車場は10台以上あります。(豊中市、箕面市、茨木市、摂津市からも車で来院しやすいです)
皮膚科(アレルギー、アトピーなど)、腫瘍科(がん)、循環器科(心臓病、腎臓病)、外科手術(麻酔管理と痛みの管理をしっかり行います)を得意としています
健康診断、予防接種、フィラリア・ノミダニ予防、避妊・去勢手術も行います。ご相談ください