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猫の慢性腎臓病:診断から治療まで | ESSE動物病院 大阪府 吹田市|ESSE動物病院吹田|吹田市(北千里駅)・箕面市・豊中市の動物病院

猫の慢性腎臓病:診断から治療まで | ESSE動物病院 大阪府 吹田市

大阪府吹田市・豊中市・箕面市の皆さん。こんにちは。

院長の福間です。

 

前回の記事から少し時間が経ってしまいました。

最近は、自分がまた勉強をしに外に出たい欲が強くなり、そのために自分がいなくても病院の軸が変わらず、引き続き不安に寄り添える獣医療と更なる専門性の高い医療を提供できるようにならないといけないな考えています。(優秀なスタッフばかりなのでもちろん自分がいなくても大丈夫なのですが、そのスタッフの迷いややりにくさがより出にくい環境にしたい、そのためにどうすればいいか悩んでいる感じです)

またそんな思いもあり、先日は埼玉の「小動物がんセンター」に見学にも行かせていただき、刺激の多い体験をさせていただきました。

それと同時に、これからより一層獣医師としても人間としてもステップアップしていく上で、自分の体のこともきちんと考えないといけないなと思い、先月からジムに通うようになりました。(真面目なことを言いましたが、お腹のお肉が気になり出したというのが本音です)

これが、今回更新が遅くなってしまった理由です。すみませんでした。

 

さて、今回は猫の慢性腎臓病について書いていこうと思います。

 

 

⚫️慢性腎臓病とは?

まず、「慢性腎臓病」とは何なのかを解説していきます。

まず慢性腎臓病とは、「3ヶ月以上腎臓にダメージが続いている状態」もしくは「3ヶ月以上腎臓の機能低下が起こっている状態」を指します。

つまり、一定期間以上腎臓へのダメージか機能が損なわれている状態です。

ただこの時に腎臓に起こっている異常とは全ての病気を含みます。

ということは、通常の猫の慢性腎臓病(「特発性尿細管間質性腎炎」:これについては後で触れます)以外にも腎臓の腫瘍や、腎臓から先にある尿管に石が詰まる尿管結石も、慢性腎臓病の定義に入ることがあります。

普通に考えても、これらが同じ経過や治療であるわけはないのですが、血液検査だけだと「慢性腎臓病」ですね、で終わってしまう危険性があります。

ちなみに病名を列挙すると、「特発性膜性腎症」「免疫複合体性糸球体腎炎」「腎アミロイドーシス」「感染性糸球体腎炎」「特発性尿細管間質性腎炎」「薬剤性尿細管間質障害」「腎盂腎炎」「尿路閉塞(尿管結石・尿道結石)」「高血圧性腎症」「腎臓腫瘍」などがあります。

めちゃくちゃ多いですね。

これを全て覚える必要はないと思います。

今回は以下のフレーズだけ覚えて帰っていただければ嬉しいです。

 

「慢性腎臓病」の何なのか?

 

もし慢性腎臓病と言われた時に、この質問を思い出せれば今回のブログで伝えたいことは、十分伝わっていると思います。

 

 

 

⚫️慢性腎臓病の診断方法は?

次に猫の慢性腎臓病の時にどのような検査が必要なのかを書いていきます。

この時の検査には2つの目的があります。

それは

 

⒈慢性腎臓病の何なのか?(そもそも慢性腎臓病なのか?)

⒉どのような治療が必要なのか?

 

です。

この2つの目的のために、複数の検査が必要になってきます。

 

①血液検査

 項目は、腎臓機能の項目(BUN(尿素窒素)Cre(クレアチニン)SDMA(対称性ジメチルアルギニン))と、CBC(貧血や炎症反応がないかの評価)、電解質(ミネラル異常がないか)、カルシウム/リン(腎機能の低下に伴う変化が出ているか)などを測定します。

 毎回ではないですが、FGF23という項目も測定しています。

 FGF23は慢性腎臓病の進行要因とされています。

②尿検査

 腎臓機能の評価項目として、尿比重(尿の濃さ)を評価します。また、尿中に他の異常がないか(感染症を疑う所見など)、異常尿タンパク(UPC:腎臓機能低下の進行要因になる)が出ていないかを評価します。

③血圧測定

 高血圧がある場合は、腎臓に負荷がかかりそれによる腎臓機能低下が進行する可能性があるため、治療を行う必要があります。

 ただ、怖がりな子や興奮しやすい子は動物病院の中で測定が困難なケースもあります。

 当院は、なるべく精度の良い機械を入れて、適切な手法で検査を行うようにしています。

当院の血圧計。新商品ということもあり、納入に数ヶ月かかりました。

 

④超音波検査

お腹の中を確認する検査方法で、腎臓の構造的な変化がどのようなものかを確認します。

 

通常の慢性腎臓病(特発性尿細管間質性腎炎)の場合は、腎臓の中の構造がボヤッとした感じでコントラストが減少する変化が多いのですが、

↑こんなイメージです。真ん中にある楕円形の構造が腎臓ですが、全体的にコントラストが少ない感じです。

 

例えば、慢性腎臓病と言われてきた症例で、エコーを当ててみると腎盂(じんう)拡張が見られ、この子は尿管結石がありました。

↑腎臓の真ん中の部分(尿がある部分:腎盂)が広がっています。

 

他にも、腎臓がゴツゴツした腫れるような変化があることもあり、これらはFIP腎臓のリンパ腫などを疑います。

↑この子は、腎臓が全体的にゴツゴツとした変化しており、針の検査の結果「FIP(猫伝染性腹膜炎)」と診断しました。

 

おまけの話として、

腎臓のエコーに合わせて膀胱も評価するのですが、その時にたまたま膀胱結石が見つかることもあります。

↑黒い空間が膀胱の中の尿で、その中に白い塊が落ちているのが見えるかと思います。この白い塊が膀胱結石です。

 

⑤腎臓生検

これは腎臓の一部を切り取り、顕微鏡で組織構造の変化を確認する検査です。

免疫複合体性糸球体腎炎やアミロイドーシスの診断に使いますが、全身麻酔下でお腹を開ける検査になるので、検査のハードルは他のものよりかなり上がるかと思います。

上記の病気は免疫抑制療法をしっかり行うことで治るものもあるため、その治療をどれくらい踏み込むべきなのかの細かな判断をするのに有用です。

当院は大学病院の先生と連携して、この検査を行なっています。

 

 

 

⚫️いわゆる猫の慢性腎臓病とは?

腎臓の解剖 紫の塊:糸球体、黄色の管:尿細管、赤と青の管:血管(動脈、静脈)

世間一般で言われる、「猫がなりやすい腎臓病(いわゆる猫の慢性腎臓病)」は「特発性尿細管間質性腎炎(とくはつせいにょうさいかんかんしつせいじんえん」です。

これははっきりとした原因は不明ですが、腎臓の中の尿細管やその周囲(間質)に炎症と線維化がおき、腎臓の機能が徐々に失われていく病気です。最近の話題だと、猫はAIMが少ないのでなりやすいのかとも言われています。

この、特発性尿細管間質性腎炎は高齢の猫が発症し、ゆっくりとした病気の進行を特徴としており、進行速度が遅いため猫が症状を示しづらく発見が遅れるケースもあります。(進行速度がゆっくりな病気は、体の慣れも起こりやすく症状の変化がわかりづらいです)

また適切な内科管理が行えれば、多くのケースで病気の発見から長期の管理ができることも少なくありません。

 

 

⚫️慢性腎臓病の治療は?

では実際の治療はどのように考えていけばいいでしょうか?

ここでは、いわゆる猫の慢性腎臓病である特発性尿細管間質性腎炎についての話をメインで書いていきます。

 

まず治療をする上で考慮すべきは、各種検査の結果と何を目的に治療をするか、です。

まず治療自体を主に2つに分けて考えます。「腎臓を保護し進行を抑制する治療」「全身状態を改善し楽にする治療」です。

 

「腎臓を保護し進行を抑制する治療」

①食事療法(タンパク制限、リン制限)

②腎保護薬(ACE阻害薬、ラプロス)

③血圧下降薬(アムロジピン、セミントラ)

④リン吸着剤

 

「全身状態を改善し楽にする治療」

①皮下点滴

②吸着剤(活性炭製剤)

③造血ホルモン(エポベット)

④乳酸菌製剤

 

猫の慢性腎臓病のステージ分類も使いますが、

基本的には今の症状と各種検査所見に沿って上の治療の何が必要かを考えていきます。

 

IRISのステージ分類

 

 

⚫️慢性腎臓病の具体的な治療選択

 

では実際にどのように治療の選択をしていくのか、簡単にお伝えします。

 

まずよく驚かれるのですが、慢性腎臓病の場合臨床症状(食欲低下、元気低下、嘔吐など)や検査所見上の異常(貧血など)がなければ、

通常「全身状態を改善し楽にする治療」(①皮下点滴、②吸着剤(活性炭製剤)、③造血ホルモン(エポベット)、④乳酸菌製剤)をする必要性は少ないことが多いです。(IRISのステージ2まではする必要がないことがほとんどです。)

 

よく、「慢性腎臓病の治療=皮下点滴」と言われていますが、それは違うと思います。

そもそも皮下点滴の目的は脱水の改善であり、(腎臓機能が落ちると体の中に水を留めにくくなり、水の喪失量が増えます)

脱水していない動物にせっせと点滴剤を入れる必要はないからです。

また点滴剤は簡単にいうと塩水です。

よく点滴で使う乳酸リンゲル液250ml(塩化ナトリウム:1.5g)には、味噌汁1杯分(塩化ナトリウム:1.2g)以上の塩分が含まれています。

過剰な塩分摂取は腎臓の負荷を増やすので、

『脱水がない状態での過剰な皮下点滴はしない』

が正しいと考えています。

 

よく相談させていただくケースでは、「腎臓を保護し進行を抑制する治療」をさせていただくことが多いです。

当院の治療適応の判断を下記に示します。

 

「腎臓を保護し進行を抑制する治療」

①食事療法(タンパク制限、リン制限)

 UPC異常+リン制限しっかりめ → 通常の腎臓病療法食

 UPC正常+リン制限しっかりめ → 通常の腎臓病療法食

 UPC正常+リン制限軽め → 早期の腎臓病療法食

②腎保護薬(ラプロス)

 IRISステージ2〜3 → ラプロス使用

③血圧下降薬(アムロジピン、セミントラ)

 高血圧あり → アムロジピン

 高血圧+UPC異常値 → セミントラ

④リン吸着剤

 食事療法後でも血中リン濃度:4.5mg/dl以上 or FGF-23:高値の場合 → リン吸着剤使用

 

※リン制限の必要性は、血中リン濃度:4.5mg/dl以上 or FGF-23:高値 で判断します。

 

仮にIRISのステージ2の症例でも、症状がなく検査の結果によっては、治療をせずに経過観察のみを行う場合もあります。

必要な治療を必要なタイミングで実施することがやはり重要かと考えています。

 

 

 

 

⚫️慢性腎臓病の猫の実際の治療例

 

◎症例1

日本猫 16歳 去勢雄

他院で慢性腎臓病の診断があり、皮下点滴とACE阻害薬で治療をしている。

治療が適正かどうか相談したい、とのことで来院。

 

  • 検査所見

-尿素窒素とクレアチニン、SDMAが軽度に上昇していました。(IRISのステージ2)

-血中リン濃度は高く、電解質や血中カルシウムの数値は正常値、尿タンパクは正常値血圧も正常値でした。

 

  • 今後の治療方針

-皮下点滴は必要でない可能性があるので、元気や食欲の変化を見ていただきながら徐々に実施間隔をあけていきます。

早期の腎臓病療法食の実施を提案しました。

-尿タンパクと血圧が正常であったことなどから、ACE阻害薬は休薬する選択肢も提案しました。(ACE阻害薬には、血圧下降による腎臓保護以外にも、腎臓の線維化を抑制する効果も報告があります)

 

  • その後の経過

皮下点滴は徐々に間隔をあけていき、体調の変化が見られなかったので終了としました

-早期の腎臓病療法食を食べてくれて、リンとFGF23の数値が改善したため、食事療法のみで管理としました(リンの吸着剤は使わず)。

-ACE阻害薬は、ご家族の意向もあり継続治療としました。

 

 

 

◎症例2 

アメリカンショートヘア 13歳 去勢雄

元気と食欲の低下が見られたため、他院で血液検査とエコー検査、尿検査を実施し、慢性腎臓病と診断されました。

皮下点滴を実施しましたが、症状の改善が見られないためセカンドオピニオンとして当院を来院。

 

  • 検査所見

-尿素窒素とクレアチニン、SDMAが中等度〜重度に上昇していました。

-エコー検査で左右の腎臓の構造の変化と腫大が確認されました。

-画像所見や他の血液検査から、腎臓のリンパ腫FIPが疑われました。

 

  • 今後の検査・治療方針

-確定診断のために、腎臓のFNA検査(細い針を病変部に刺して、細胞を採取する検査)を実施しました。

FNA検査の結果、「腎臓リンパ腫」と診断しました。腎臓リンパ腫に対しては、抗がん剤治療をご家族に提案しました。

 

  • その後の経過

-入院下で、抗がん剤(L-アスパラギナーゼとプレドニゾロン)での治療を行いました。

3日間の入院で、腎臓の縮小と構造変化の改善、尿素窒素とクレアチニンの数値の改善を確認しました。

一般状態も改善されたため、一時退院とし通院治療に切り替えました。

その後、他の抗がん剤も組み合わせながら治療を継続しています。

 

※この症例は、正確には慢性腎臓病ではないのですが、慢性腎臓病という診断が先にあってのセカンドオピニオンだったので、このように記載させていただいています。

 

 

 

⚫️猫の慢性腎臓病への予防

最後に猫の慢性腎臓病の予防について書かせていただきます。

 

◎慢性腎臓病への予防

食事やお水についてなどよく聞きますが、ある程度当たり前の内容にもなってしまうので、

ここでは2つお伝えします。

 

①口腔内ケア

 重度歯周病がある猫は慢性腎臓病の発症確率が上がるという報告があります。

 猫は慢性的な炎症があるとアミロイドの産生が起こり、これが腎臓に対してマイナスに働くと考えられています。

 可能であれば歯磨きを。難しい場合は、口の状況に応じて全身麻酔下での歯科処置を行うことをお勧めします。

 全身麻酔は腎臓にとって良くないのでは?という意見もあるかと思いますが、適切な麻酔管理を行えばそのリスクはかなり下げられると考えています。歯周病を放置することでの腎臓に与える影響や口の中に痛みがある状況を置いておくことを考えると、歯科処置を行う方がこの先のリスクや負担が減る可能性もあると思います。

 

②定期的な健康診断

 いわゆる猫の慢性腎臓病である特発性尿細管間質性腎炎は、進行がゆっくりで症状も示しにくいので、気づいた時にはかなり進行してしまっているということも少なくありません。

そこに気づくには、たとえ元気であったとしても年に1〜2回の定期的な健康診断が有効だと思います。(特発性尿細管間質性腎炎だけの話であれば年1回でもOKだと思います。)

猫を外に連れ出すことへの、猫自身やご家族のストレスはよくわかるので無理にとも言えないのですが、ストレスを和らげるお薬をご提案させていただくこともできます。

健康診断はしたいが猫自身のストレスに対しての不安がある、という場合は一度動物病院へ相談いただくのがいいかと思います。

 

 

 

 

⚫️まとめ

今回は猫の慢性腎臓病について書かせていただきました。

猫の慢性腎臓病に対しての診断や治療は、血液検査をして皮下点滴をすれば良いと言うものではなく、複数の検査を行い腎臓やそれに関わる変化を適切に判断し、その状況に合わせた必要十分な治療を考えてあげる必要があります。

そのような細かなことも含めると、慢性腎臓病の治療も病院によって大きく変わり得るものだと思います。

猫の慢性腎臓病の場合は、治療が長期になるケースも少なくありませんので、検査の内容や治療方針などに疑問があれば、他の病院へセカンドオピニオンに行くことも大切だと思います。

愛猫ちゃんとご家族の今後のより良い生活のために、力になってくれる病院がきっとあると思います。

 

 

 

 

ESSE動物病院 院長 福間

大阪府吹田市青山台2−1−15(北千里駅から徒歩8分)

駐車場は10台以上あります。(豊中市、箕面市、茨木市、摂津市からも車で来院しやすいです)

皮膚科(アレルギー、アトピーなど)、腫瘍科(がん)、循環器科(心臓病、腎臓病)、外科手術(麻酔管理と痛みの管理をしっかり行います)を得意としています

健康診断、予防接種、フィラリア・ノミダニ予防、避妊・去勢手術も行います。ご相談ください

 

院長 福間 康洋
院長 福間 康洋
記事監修
院長 福間 康洋(フクマ ヤスヒロ)
  • 日本獣医腫瘍科認定医Ⅱ種(吹田市で1人、大阪府で30人[2023年4月時点])
  • 日本獣医腎泌尿器学会認定医
  • 獣医教育・先端技術研究所 腹部・心臓超音波研修 修了
  • 日本獣医皮膚科学会所属
  • 日本獣医がん学会所属
  • 日本獣医循環器学会所属
  • 日本獣医腎泌尿器学会所属
  • 日本獣医救急集中治療学会所属
  • 日本小動物歯科研究会所属
  • 日本獣医麻酔外科学会
  • 2015年:鳥取大学獣医学科卒業
  • 2018年:犬とねこの皮膚科 研修生
  • 2018~19年:ネオベッツVRセンター 研修生(内6ヶ月間)
  • 2021年:ESSE動物病院 開院
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