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大阪府吹田市・豊中市・箕面市の皆さん。こんにちは。ESSE動物病院の院長 福間です。
今回は、最近問い合わせがあった膀胱腫瘍の化学療法について書いていこうと思います。
・犬の膀胱腫瘍とは?
・犬の膀胱腫瘍への治療について。
・新しい治療薬『ラパチニブ』について
・治療効果と副作用は?
・ラパチニブの欠点
という内容で書いていこうと思います。
よろしくお願いします。
膀胱とは、腎臓で作られた尿を溜める臓器で、ヒトはもちろん犬や猫にも存在する内臓器です。他の臓器同様、この膀胱にも腫瘍ができることがあります。
この膀胱腫瘍で犬において一番発生が多い腫瘍は、「移行上皮癌」です。
移行上皮癌は膀胱の内側にある粘膜からできる腫瘍で、犬の膀胱組織として出されたもののうちおよそ50%が移行上皮癌だったという報告もあります。
好発犬種(この病気になりやすい犬種)としては、シェットランド・シープドッグ(シェルティー)、ビーグル、ミニチュア・ダックスフンドが報告されています。
これらの犬種は中高齢になれば、健康診断時に膀胱エコー検査も行ったほうがいいのかもしれません。
この膀胱の移行上皮癌の厄介な点としては、転移や播種(はしゅ:周りの組織に散らばり増殖すること)をとても起こしやすい腫瘍であるということです。
ここでは割愛しますが、診断を行うときも通常の針検査は行わずにカテーテルによる細胞の採取という、少し特殊な検査手法を用います。
ではこの移行上皮癌への治療にはどのようなものがあるのでしょうか?
治療法は大きく分けて3つです。
・外科手術
・内科治療
・緩和治療
移行上皮癌の治療法の中では、唯一根治の可能性がある治療法です。
内容はとてもシンプルで癌細胞がいるところを全て取り除くというものです。ただこの全てというのがとても難しいんです。
なぜかというと、先に書いた「移行上皮癌は転移や播種を起こしやすい」という特徴があるからです。
例えば、転移がすでに認められる場合は癌細胞が細胞レベルで全身に散っていることが予想されるので、あくまで目に見える癌の塊を取るので外科手術を行うことができません。
また腫瘍細胞を少しでも残したり、手術中にばら撒いたりすると癌の再発を招いてしまうので、根治を目指す場合は膀胱だけでなく尿道なども一括で手術することが多く、かなり大掛かりな手術になり術後も尿を溜めることができなくなるので、尿が常に出続けオムツでの管理や消毒が必要になります。
移行上皮癌を完全に治す、という大きなメリットがありますが、手術を行うことができる病期や環境などの条件が整う必要があると考えています。
内科療法は外科手術と違い、基本的に根治は目指しません。
癌の進行を遅らせたり時に小さくすることで、より良い生活をより長く行うことを目的とした治療です。
今現在使われている薬はいくつかありますが、私自身が使うことがあるお薬としては、
・ピロキシカム(or メロキシカム)
・パラディア(薬品名:トセラニブ)
・タイケルブ(薬品名:ラパチニブ)
があります。
これらの細かい内容は後ほど書かせていただきますが、内科治療のメリットとしては全身療法であるため、転移がある症例でも行う意味があったり、手術ほどの強い侵襲を伴わない点にあると思います。
緩和治療は全ての腫瘍治療において同じですが、「緩和治療は緩和治療だけやる」ではありません。緩和治療は、他の治療をするにしろしないにしろ全ての状況で実施を検討すべき治療だと考えています。
これは緩和治療の目的が、「様々な苦痛の予防・緩和を行うことで、生活の質を向上させる」だからです。
移行上皮癌の治療における緩和治療としては、
・疼痛緩和
・膀胱内感染の管理
・排尿障害に対するケア
・その他(消化器症状への対症治療、など)
があると思います。
特に、膀胱自体の腫瘍や骨転移による癌性疼痛がある場合は、積極的な疼痛管理を行うことで動物の生活の大きく改善される可能性があります。
さて、ここから本題の『ラパチニブ』について書いていきます。
ラパチニブとは、分子標的薬と呼ばれる薬です。分子標的薬とは、目標とした細胞(ここでは癌細胞)などが持つ特徴をターゲットとして効果を発揮するお薬で、通常の抗がん剤が全員ダメージを与える薬なのに対して分子標的薬はスナイパーのように狙い撃ちをするお薬、というイメージです。
このラパチニブは、人の乳がんに対してのお薬として開発されました。人の乳癌の中には、『HER 2』という分子を過剰に作る癌がいてそのような乳癌にHER 2をターゲットにする分子標的薬を使う治療が行われています。人の乳癌では、ハーセプチンという分子標的薬の名前が比較的よく聞きます。
ここまではヒトの話なのですが、実は犬でもこのHER 2が過剰に作る癌が報告されています。それが、膀胱の移行上皮癌です。
では、実際に膀胱の移行上皮癌に対してラパチニブは効くのでしょうか?
これに対しての一つの答えとして、東京大学から出ている論文を紹介します。
論文は、「Lapatinib as first‑line treatment for muscle‑invasive urothelial carcinoma in dogs」でオープンアクセス(無料)ですので、興味のある方は是非見てみてください。
この論文の中で、従来の治療であるピロキシカム単独の治療との比較としてデータが出ています。
・ピロキシカムのみだと癌が小さくなったのは9%であったのに対して、ピロキシカムとラパチニブ併用だと54%の癌が小さくなった。
・無進行生存期間(治療中癌の進行が起こらない期間)の中央値は、ピロキシカムのみだと90日であったのに対し、ピロキシカムとラパチニブ併用だと193日だった。
・全生存期間の中央値は、ピロキシカムのみだと216日であったのに対し、ピロキシカムとラパチニブ併用だと435日だった。
かなり衝撃的なデータだと思います。
しこりとして出来上がってしまった癌を薬のみで小さくすることはとても素晴らしいですし、結果的に生存期間や病気の進行も抑えることができています。
では、副作用はどうでしょうか?
この論文では、肝酵素の上昇が48%、嘔吐が18%、下痢が18%、食欲低下が11%、クレアチニン(腎機能マーカー)の上昇が11%で、
その他、皮膚症状なども報告されています。
ただこれらの全てが副作用としては軽度であったと報告されています。
ラパチニブは、犬の膀胱移行上皮癌への治療としてとても使えそうですね。
ただ、最後になりますがラパチニブには大きな欠点があります。
それは、価格が高いことです。
仕入れ値で、1錠 2,300〜3,000円ほどかかります。
それに在庫を抱えるリスクなども考えるとどうしても、処方時の価格はこれより上げざるを得ません。
なので、例えば5kgの犬だとラパチニブの治療費だけで、月に50,000円以上かかる計算になります。
ここがもう少し改善すれば、より多くの動物がこの治療を受けることができるようになるだろうと思います。
今回は、犬の膀胱移行上皮癌についてというところから、この腫瘍に対しての新規治療である『ラパチニブ』に関して紹介させていただきました。
日進月歩の獣医療はついていくのがとても大変ですが、頑張って勉強している中で今までできなかった治療ができるようになるというとても嬉しくなることが時々あるので、やはり勉強は続けていきたいと思います。
この治療に関して、話を聞いてみたいなどありましたら、是非一度当院までご連絡ください。
ESSE動物病院 院長 福間
大阪府吹田市青山台2−1−15(北千里駅から徒歩8分)
駐車場は10台以上あります。(豊中市、箕面市、茨木市、摂津市からも車で来院しやすいです)
皮膚科(アレルギー、アトピーなど)、腫瘍科(がん)、循環器科(心臓病、腎臓病)、外科手術(麻酔管理と痛みの管理をしっかり行います)を得意としています
健康診断、予防接種、フィラリア・ノミダニ予防、避妊・去勢手術も行います。ご相談ください