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大阪府吹田市・豊中市・箕面市の皆さん。こんにちは。ESSE動物病院の院長 福間です。
今週末の日曜が、日本獣医がん学会腫瘍科認定医Ⅰ種1次試験の試験日です。いよいよといった感じです。
今回は、その教科書にも出ている内容でまたがん治療を行う上で、誰もが気になる「化学療法剤(ややこしいのでよく使われている「抗がん剤」という言葉を今回はメインに使っていきます)」について書いていきます。
抗がん剤について皆さんはどのようなイメージがあるでしょうか?
『きついお薬』、『毛が抜ける』、『逆に負担を増やす』、『誰がやっても同じ』
このようなイメージってありませんか?
なかったら今回の話はそこまで響かないとおもいますが、もし一つでも当てはまればこのまま読み進めてもらえれば嬉しいです。
抗がん剤の副作用には、まずメインのものとして「BAG」と略される、「骨髄抑制(Bone marrow suppression)」「脱毛(Alopecia)」「消化管毒性(Gastrointestinal toxicity)」があります。(※ただ、脱毛に関しては猫の髭がなくなるなどはあるものの、動物ではさほど問題にならないので、今回は飛ばします。)
ここに、「心毒性」、「無菌性出血性膀胱炎」、「腎毒性」、「局所皮膚毒性(血管外漏出)」、「急性腫瘍崩壊症候群」について書いていきます。
よって、今回の内容は、
・骨髄抑制について
・消化管毒性について
・心毒性について
・無菌性出血性膀胱炎について
・腎毒性について
・局所皮膚毒性(血管外漏出)について
・急性腫瘍崩壊症候群について
・まとめ
を書いていきます。
まず骨髄抑制とは何か?です。
骨髄という、白血球や赤血球など血液の中の重要な細胞を作っている部分があり、抗がん剤がこの骨髄の働きを邪魔することを骨髄抑制と言い、結果として起こる白血球などの低下が問題となってきます。
ドキソルビシン、ビンクリスチン、シクロフォスファミドなど、多くの抗がん剤ではこの骨髄抑制が起こります。
むしろ、これらのお薬で骨髄抑制が起こらない場合、血液検査を行うタイミングが間違っているか抗がん剤の量が少ないと考えた方がいいです。
なので、骨髄抑制は起こりすぎないように、けれど問題の少ない範疇では起こるように薬の量で調節します。
ここまでの重要なことを箇条書きにすると、
・ 骨髄抑制が起こる抗がん剤を使う上で、副作用が起こらないと言うことはありえない。むしろ起こらない方が問題。
・ 骨髄抑制が起こる抗がん剤を使う上で、薬が足りているのか効きすぎているのかの判断のため、骨髄抑制の有無を確認する検査は必要。
です。
また薬の投与後に骨髄抑制が起こるタイミングも重要です。このタイミングから1〜2日過ぎると白血球(特に好中球)はすぐに戻ってきます。
なので、しっかりピンポイントで測ることが重要です。
ビンクリスチン・ビンブラスチン:5〜7日後
ドキソルビシン:7日後
シクロフォスファミド・ロムスチン:7〜10日後
を目安に血液検査を行います。
私は少なくとも最初の投与後にしっかり血液検査を行い、投与後いつ白血球が一番下がるのかしっかり確認するようにしています。
では、具体的に骨髄抑制が起こると何が問題になるのかを考えていきます。
通常骨髄抑制で問題になるのは、貧血よりも白血球減少による免疫低下です。
つまり、骨髄抑制 ⇨ 白血球減少 ⇨ 免疫低下 ⇨ 全身性の感染症(敗血症など)にかかりやすくなる、となります。
ただ何もない状態で免疫が低下しても感染症に発展するわけではなく、例えば重度の歯周病や抗がん剤による消化器症状(後に説明します)と重なることで問題となることが多いと考えられます。ですので、これらに対しては事前にできることをしっかりやっておく必要があります。
例えば、
・抗がん剤治療前に歯石除去などの歯周病治療を行う。(全身麻酔下で組織検査を行う場合、抗がん剤の使用が想定される場合は歯石除去もこの時にまとめてしてしまいます)
・抗がん剤の消化器症状が重篤化・長期化しないように、予防的な薬の投与の検討。
そして、いざ発熱などの全身性の細菌感染症の兆候が認められた場合、早急に抗生剤などでの治療を行います。
消化管毒性とは抗がん剤の副作用による、悪心、嘔吐、食欲不振、下痢といった症状が出ることを言います。
これも、多くの抗がん剤で起こるものなのでとても重要な副作用の一つになります。
また一度起こってしまうと、ご家族を治療に対して消極的にしてしまうこともあるので、予防が大切と考えています。
消化管毒性には、投与後〜1日で起こる急性のものと、投与後3〜5日ほどで起こる遅発性のものがあります。
これらへの予防策としては、
・急性(投与後〜1日):抗がん剤の投与と一緒にセレニアなどの吐き気止めを投与する。
・遅発性(投与後3〜5日ほど):投与後1週間ほど吐き気止めを飲み続けてもらう。
というようなことを行なっています。
先程の骨髄抑制の項でも書いたように、この消化器症状が長引いてしまいその間に白血球減少が強く起こってしまうと、全身性の感染症に発展してしまう可能性もあるので、
しっかり管理するように努めます。
心毒性は、アントラサイクリン系と呼ばれる抗がん剤に見られる副作用です。
心臓の筋肉が障害を受けてしまうことにより、不整脈、心臓の収縮低下、うっ血性心不全の発生に関与すると言われています。
この心毒性は、累積投与量に関連すると言われ累積して一定以上の同一の抗がん剤を使用することにより、その発症がより起こりやすくなることが知られています。
例えば、犬によく使う抗がん剤の一つである「ドキソルビシン」がこの心毒性を対して考慮して使います。
累積投与量が180〜240mg/m2を超えないようにすべきと言われており、ドキソルビシンの投与量は10kg以上の犬では30mg/m2/回なので、ドキソルビシンは6回以上入れる場合は心毒性のリスクをよりしっかり考えないといけないということになります。
この心毒性に対しての対処や予防策としては、
・拡張型心筋症の犬には使用しない。
・投与開始前に心臓の超音波検査を行い、収縮率やうっ血の程度を確認しておき、定期的に心臓に異常が起きていないか確認する。
・どうしてもドキソルビシンを累積投与量を超えて使用する場合は、デクスラゾキサン(ドキソルビシンの副作用を和らげる薬)の併用を行う。
などを行います。
これは、シクロフォスファミドとイホスファミドいう抗がん剤にのみ起こる副作用です。
字の通り、菌はいないけど膀胱炎になり血尿も伴う状態になります。
これは、これらの抗がん剤が体の中で分解されてできる物質(アクロレイン)が膀胱に溜まることで膀胱の壁に炎症を起こすことによって起こります。
なので、予防策としてはこれらのお薬を投与した後に膀胱におしっこを長時間溜めないようにしないといけません。
例えば、
・投与後に利尿剤や点滴を短期間(1〜2日間)使い、尿の量を増やす。
・頻繁に飲水を促したり、トイレに連れて行ったりする。
ということを行います。
また、もしこの無菌性出血性膀胱炎になってしまった場合は、お薬を中止して対症療法を行うしかありません。
無菌性出血性膀胱炎が治るまで平均50日かかったとする報告もあるため、発症しないように予防することがとても重要だと考えています。
ちなみに、シクロフォスファミドによる無菌性出血性膀胱炎の発生率は、リンパ腫治療などで使う多剤併用療法では10%ほどですが、
メトロノミック化学療法(少ない量を頻回で使うやり方で、血管肉腫などに使うことがあります)では、30%ほどとする報告もあります。
ですので私自身は、シクロフォスファミドでのメトロノミック化学療法を行うことはほとんどありません。
抗がん剤の中には、腎臓に対して毒性を示すものもいます。その結果、腎臓の機能低下が起こることがあります。
獣医療でよく使うものとしては、ドキソルビシンやカルボプラチンが腎毒性を示す可能性があります。
特に猫では、ドキソルビシンによる腎毒性を警戒します。
予防策としては、
・定期的な血液検査を行い、腎数値を確認する。上昇傾向にあれば、抗がん剤の変更を検討する。
・抗がん剤の投与時に点滴を行い、水分バランスを整えるようにする。
・他の腎障害を起こす可能性のある薬物の併用を避ける。
などがあります。
抗がん剤の中には、血管から漏れて皮膚の下に薬が入ってしまうことにより重大な組織障害を起こしてしまう薬剤があります。
よく使われる抗がん剤の中では、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ドキソルビシンなどが挙げられます。
症状としては、痛み、炎症から組織壊死、皮膚が落ちてしまったりと、重大な状態に至ることもあります。
予防策としては、
・日頃から前足などの抗がん剤投与で使う可能性のある血管から、採血などを行わないようにする。(血管が痛むので)
・抗がん剤の投与に使う血管は、1発で留置に成功したものを使う。
・投与前に生理食塩水などを投与し、しっかり血管の中に入っているのを確認する。
・抗がん剤の投与中は、肘などを曲げたり暴れたりしないように安全に投与できるよう環境を考慮する。
・抗がん剤の投与中も、定期的に漏れていないか確認する。
などがあります。
そして万が一漏れてしまった場合は、
・投与を直ちに中止する。
・すぐに針などを抜かず、なるべく漏れてしまった液体を回収する。
・それぞれの薬剤に対して、適切な処置を実施する。(ex.ドキソルビシンなどは吸収を抑制したいので、冷やします。ビンクリスチンなどは吸収させたほうがいいので、温めます。)
などを行い、なるべく重症化しないよう手を尽くします。
この局所皮膚毒性(血管外漏出)に関しては、暴れるかどうかなどの動物の気質も原因の一つではありますが、やはり処置を行ない管理している医療者サイドの問題である部分が多いので、絶対起こさないように特に注意して処置や対策を行なっています。
どうでしたでしょうか?
抗がん剤にいろんな副作用があって驚かれましたでしょうか?また少しマイナスなイメージを持ってしまったでしょうか?
ただ私自身よくない状況の一つとして、知らないことによる「不安」があることだと思っています。なぜなら、この不安は漠然とした不安になるので、何をすればこの不安が解消されるかがわからず、対処のしようがないからです。
けれど、情報を知った上での不安は対処することができます。
例えば、骨髄抑制が怖い ⇨ 通常よりも頻繁に検査を行い、免疫が下がるタイミングをしっかり把握していこう。といった感じです。
そしてこういった不安を解消していくと、より動物との生活を大切にでき幸せな時間を送ることができると考えています。
私たちは、抗がん剤治療の時に今回説明したような副作用にも配慮を行い、「治療効果を最大に、副作用を最小に」を目指し治療内容を提案しています。
そうすることで、抗がん剤治療を行うことで動物をより元気にすることができるからです。
当院はセカンドオピニオンやLINEでの相談も受け付けています。
ご家族であるわんちゃん猫ちゃんの腫瘍の診断や治療に関して、不安や相談などありましたらお気軽にご連絡いただければと思います。
よろしくお願いします。
ESSE動物病院 院長 福間
大阪府吹田市青山台2−1−15(北千里駅から徒歩8分)
駐車場は10台以上あります。(豊中市、箕面市、茨木市、摂津市からも車で来院しやすいです)
皮膚科(アレルギー、アトピーなど)、腫瘍科(がん)、循環器科(心臓病、腎臓病)、外科手術(麻酔管理と痛みの管理をしっかり行います)を得意としています
健康診断、予防接種、フィラリア・ノミダニ予防、避妊・去勢手術も行います。ご相談ください