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大阪府吹田市・豊中市・箕面市の皆さん。こんにちは。ESSE動物病院の院長 福間です。
もう5月ですね。狂犬病ワクチン接種やフィラリア予防でまだまだ忙しい日が続きます。
新型コロナ感染症にも気を使い、スタッフや自身の体調にも気を使い引き続き頑張っていきます。
さて今回は、『僧帽弁閉鎖不全症』について書いていきます。内容は、僧帽弁閉鎖不全症について、と、僧帽弁閉鎖不全症の症状について、を書いていきます。
まずは、心臓と僧帽弁閉鎖不全症について説明していきます。
犬の心臓は人や猫と同じで、4つの部屋に分かれています。
この内の左心房と左心室の間にある弁を“僧帽弁”と言います。この僧帽弁があるため、血液が左心房⇨左心室へ一方通行で流れていきます。
僧帽弁閉鎖不全症とは、書いて字の如くこの僧帽弁がきちんと閉まらなくなる病気です。
ここでは腱索(弁をつなぐヒモ)が切れて、蝶番が壊れた扉のように僧帽弁がぶらんぶらんと閉まらなくなっている図が書かれています。
その結果、本来は一方通行だった血液の流れが左心室⇨左心房へ血液の逆流が生じます。そうすると2つの現象が起こります。
1つ目は、本来全身へ送られるはずの血液が少なくなります。(※左心室には、心臓に帰ってきた血液を全身にぎゅうぅっと送り出す大事な役割があります。)
こうなると、全身へ送られる血液量が減ると、全身臓器へ供給される血液が少なくなる = 全身臓器への酸素供給が少なくなるとなり、元気食欲が下がったりひどい状況だと立てない、意識がないといった症状を示すこともあります。
2つ目は、左心房には本来ある血液に加えて逆流してきた血液が入るので、たくさんの血液が左心房に負担をかけてしまいます。
こうなると、左心房へ負担がかかると、心臓が大きくなる = 心拡大が起こります。これに関連して、咳や肺水腫などの症状を示すことがあります。
詳しくは、また後ほど書こうと思います。
僧帽弁閉鎖不全症にかかりやすい犬種としては、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、シーズー、ミニチュアダックス、チワワ、ヨーキー、ポメラニアン、トイプードル、マルチーズといった小型犬で多く、中高齢の発症が多いです。
僧帽弁閉鎖不全症の症状は、①元気・食欲の低下 ②咳 ③呼吸困難 が挙げられます。
では、これらがどのように起こるのかを説明していきます。
これは先ほど説明したのでサラッと流そうと思います。
原因は僧帽弁がうまく閉まらないことで、血液が一部逆流してしまい血液の流れが悪くなってしまうからでしたね。
ここで大事なことが1点。
この症状、実は気づかれていないことが多いんです。
それはこの病気が中高齢で発生の多く、病気での体調の変化を年のせいと思われることが多いからです。なので、この症状のみの場合は健康診断や別件で診察した時に、たまたま見つかるケースが多いと思います。
僧帽弁閉鎖不全症の診断時に、飼い主さんが気づいて連れてくる症状の中で1番頻度多い症状は「咳をよくする」です。
ではなぜこの咳が起こるのでしょうか?
まずこの2つの心臓を見比べてもらうと、左心房という部屋が大きくなっているのがわかると思います。
左心房の近くには空気の通り道である気管支があり、心臓が大きくなるとこの気管支を直接刺激してしまうことが咳の出る理由の1つだと考えられています。
僧帽弁閉鎖不全症は進行すると、肺がむくんだり水が貯まる“肺水腫”と呼ばれる状態になることがあります。
肺水腫になると、空気を吸っても肺が酸素を取り込むことができずに息苦しくなります。
この症状、最初は呼吸回数を増やすことで犬はなんとか必要な酸素を得ます。なので、初期の症状は「呼吸回数が多い」で心臓病の犬が1分間に40回以上呼吸してると肺水腫を疑いましょう、というデータもあります。
では、実際どのような流れで肺水腫まで至るのか簡単に説明していきます。
僧帽弁がうまく閉まらず、血液の逆流が起こると左心房に血液がたくさん入り左心房に負担がかかります。
しかし大きくなるのにも限界があり、それを超えると左心房は血液を受け止め切れなくなります。受け止め切れなくなった血液は、左心房のさらに前の部屋の“肺血管”に負担をかけます。肺血管に負担がかかると、血液の中の水だけが肺に漏れ出し肺水腫になります。
肺水腫は、重症だと命にも関わる症状です。
また、うまく呼吸ができず動物が苦しい思いをする症状でもあるので、私たちの治療目標の1つは「いかに肺水腫にならないようにするか」だと考えています。
まず僧帽弁閉鎖不全症を疑った場合、どの様な検査をすればいいのでしょうか?
実は僧帽弁閉鎖不全症の診断だけで言えば、聴診とエコー検査、これだけで十分なんです!
聴診 ⇨ 胸の左側からある程度の大きさの心雑音がある
エコー検査 ⇨ 僧帽弁の異常と僧帽弁逆流がある
この流れで、僧帽弁閉鎖不全症の存在は肯定できるからです。
ではこれで十分でしょうか?
もちろん、答えはNO!です。
軽度の僧帽弁閉鎖不全症であれば、これだけでもいいかもしれませんが、基本的には体温、心拍数、呼吸数、血液検査、レントゲン検査や血圧測定、心電図検査といった内容を確認します。
これらは、治療内容の決定に必要な情報なんです。
ですので「病気の有る無しがわかればいい」というオーダーであれば別ですが、通常はこれらの検査のご提案をします。
心臓のエコー検査は、超音波で心臓の動きを診る検査です。
放射線や痛みの心配が要らない、とても便利な検査です。
通常動物には横になってもらい、検査をします。
実際のエコー画像です。
この画像で異常な僧帽弁が見えて、弁がきちんと閉まっていないのが確認できます。
この画像は、「カラードップラー」と言い、血液が逆流しているところを見れる画像です。
他にもサイズや血流速を測ることで、心臓と心臓への負荷の状況を予測します。
左:心臓の収縮率や壁の厚さ、広がった時の心臓内の広さを見ています。
右:左心房という、僧帽弁閉鎖不全症で負荷のかかる心臓の部屋の大きさを見ています。
左:心臓から出る血液量を推測しています。
右:左心房の圧力や、左心室という部屋の広がる程度を見ています。
こういういろんな心臓の断面や動きを見ることで、心臓の状況を把握するのが心臓のエコー検査だと考えています。
レントゲン検査とは、X線検査と同じ意味でX線を使って体を透かして診る検査です。
痛みはありませんが、一応放射線のリスクはあります。
※レントゲン検査の安全基準はかなり厳しいので、通常の検査で行う程度では健康に害はありません。
レントゲン検査では、通常心臓の大きさ、肺の見え方を診ます。
これが僧帽弁閉鎖不全症のレントゲン画像です。
シルエットをなぞってみました。 赤:心臓 青:肺 黄色:気管(口と肺を繋ぐ空気の通り道)
心臓の模式図と重ねてみました。
僧帽弁閉鎖不全症で大きくなる、左心房はこの位置です。
この赤く塗った場所が、通常の心臓よりも大きくなっている部位です。
僧帽弁閉鎖不全症の場合は、ここを見て「心臓大きくなってますね」とか話しています。
これは通常の心臓です。 赤:心臓 青:肺 黄色:気管(口と肺を繋ぐ空気の通り道)
前の写真で、赤く塗った部位が通常の心臓にはないのがわかるかと思います。
レントゲン検査では、このように心臓の拡大の様子を見たり、肺が白くなっていないか?その他の異常がないか?などを確認しています。
ここでは、僧帽弁閉鎖不全症に対してどのような血液検査があり、またどのような意味があるのかを考えていこうと思います。
まず“一般血液検査”です。ここでは通常の健康診断で確認するような、白血球、赤血球、肝臓、腎臓などの数値を見る血液検査を指します。
これを行う目的として、私が考えているものは、
①全身状態の確認:これは、治療中に体調の変化があった場合他の病気の有無がわかっていれば、その分早い対応ができると考えるからです。
②治療の選択:お薬によっては、特定の臓器に負担をかけるものもあります。例えば、腎臓病も持っている子には心臓病でよく使う「利尿剤」を慎重に用いる必要があります。
この2つだと思います。
このように治療の選択が変わる可能性もあるので、一般血液検査を提案することは多いです。
次に“特殊血液検査”です。ここでは、僧帽弁閉鎖不全症の診断やその経過観察の項目として測定する血液検査を指します。
僧帽弁閉鎖不全症における特殊血液検査は、“ANP”、“NT-proBNP”、“hs-cTnI”があります。
ANPは心房への負荷によって、
NT-proBNPは心室への負荷によって、
hs-cTnIは心筋細胞の損傷によって
分泌されるホルモンです。
これはそれぞれのホルモンが分泌されるところです。
つまり、ざっくり言うとどの検査項目も心臓に負担がかかると上がる数値だと言えます。
※もちろん違いはあるので使い分ける必要はあります。
ちなみにANPはこのようなデータがあります。
これは、エコー検査上で「左心房が大きい」や「左心室が大きい」症例では、ANPが高かった、という内容です。
つまり、特殊血液検査を行うことで心臓の状況を予測することができるのです。
僧帽弁閉鎖不全症への血液検査と一括りに言っても、広く体全体の様子を見る血液検査と心臓に的を絞った血液検査があるわけです。
また血液検査は、結果が数字なので理解しやすいのも利点です。
ただ全ての状況において、白黒分かれるわけではなくそれは他の検査と同じなので、あくまで“1つの検査”として使っていくべきかなと思います。
少し長くなったので、今回はここまでとします。
次は血圧測定と治療について書いていこうと思います。
よろしくお願いします。
ESSE動物病院 院長 福間
大阪府吹田市青山台2−1−15(北千里駅から徒歩8分)
駐車場は10台以上あります。(豊中市、箕面市、茨木市、摂津市からも車で来院しやすいです)
皮膚科(アレルギー、アトピーなど)、腫瘍科(がん)、循環器科(心臓病、腎臓病)、外科手術(麻酔管理と痛みの管理をしっかり行います)を得意としています
健康診断、予防接種、フィラリア・ノミダニ予防、避妊・去勢手術も行います。ご相談ください