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大阪府吹田市・豊中市・箕面市の皆さん。こんにちは。ESSE動物病院の院長 福間です。
犬の心臓の話をしたのに、猫の心臓の話をしていないということで、今回は猫の肥大型心筋症の話をしようと思います。
話の内容としては、
猫の肥大型心筋症とは?
肥大型心筋症の症状は?
肥大型心筋症の検査は何をするの?
肥大型心筋症の治療は?
症状によって治療はどう変わる?
後ろ足が急に動かなくなる血栓症って?
とこのような内容で書いていこうと思います。
肥大型心筋症とは、猫の心臓病の中で1番多い心臓病です。
肥大型心筋症とは、心臓の壁(筋肉)が異常に分厚くなる病気です。
下の図の左が正常な心臓で、右が肥大型心筋症の心臓です。心臓の壁の厚さが全然違いますね。
心臓は血液を送り出すときに、 広がって ⇆ 縮む これを繰り返しています。
心臓の筋肉が分厚くなると、この「広がる」ことがしづらくなるのです。
通常のゴム風船と分厚いゴム風船で、どちらが広がりやすいか想像してもらうとわかりやすいと思います。
そしてこの広がりにくい心臓はいくつの不都合が出てきます。
広がりにくいため1回の拍動(広がって縮む)で送り出せる血液量が少なくなります。
結果、心臓の機能低下が起こります。
広がりにくいため受け取れる血液量も減少します。
その結果、心臓の他の部屋に血液が溜まり、心拡大が起こります。
この
①心機能低下②心拡大が具体的などのような症状として出てきて、
どのような治療が必要なのかは、後で詳しく説明します。
最後に、この肥大型心筋症にはかかりやすい猫種が報告されています。
好発猫種:メインクーン、アメリカン・ショートヘア、ラグドール、ノルウェージャン・フォレスト・キャット、スコティッシュ・フォールドです。
まず、肥大型心筋症の症状について絶対抑えておかないといけないことが1つあります。
それは、
『無症状の肥大型心筋症の猫が多い』
です。
肥大型心筋症だった猫の約15%は無症状だったという報告もありますし、また症状があったとしてもなんとなく元気がない、などのはっきりとしない症状であることも少なくないと考えています。
また、犬の心臓病と比較して聴診で異常がわかることが少なく、一般的な身体検査では心臓の異常に気づきにくいんです。
※犬の僧帽弁閉鎖不全症では心雑音はほぼ必発ですが、猫の肥大型心筋症では70%くらいとかなり下がってしまいます。
なので、猫の肥大型心筋症に関しては身体チェックのみだけでなく、健康診断として心臓エコー検査を定期的に受けられることをおすすめします。
それでは、猫の肥大型心筋症の症状について書いていきます。
①元気の低下
②食欲の低下
③運動時に口を開けて呼吸する
④ふらつき
⑤失神
⑥呼吸が早い
などです。
肥大型心筋症とセットで説明されることの多い動脈血栓塞栓症の症状は、上記以外のものもありますが後の方で説明します。
肥大型心筋症は、心臓が広がりにくいため1回の拍動(広がって縮む)で送り出せる血液量が少なくなり、その結果起こる心臓の機能低下が原因と考えます。
心臓はゆっくりだとしっかり広がれますが心拍数が上がるとしっかり広がれがれなくなります。
(手拍子で例えると理解しやすいと思います。60回/分のスピードでは、手と手をしっかり離すことができますが、180回/分のスピードではしっかり離すことは難しいですよね。)
さらに、肥大型心筋症自体心臓が広がりにくくなる病気なので、この心拍数が上がると極端に心臓の機能が落ちてしまいます。
結果、運動などで心拍数が上がると開口呼吸、ふらつき、失神などの症状が起こるのです。
また他の要因として、肥大型心筋症の心臓で一部見られる「左室流出路閉塞」というものがあるとさらにこの症状が出やすくなることも考えられます。これに関しては、検査のところで説明します。
肥大型心筋症への検査には、大きく分けて2つあると考えています。
①他の疾患を否定するための検査
②治療方法を決定するための検査
です。
それぞれ説明していきます。
後で話す『心エコー検査』によって肥大型心筋症の診断は行います。
が、時に他の病気や特定の状態で肥大型心筋症のように見えることがあります。
このため、肥大型心筋症への検査を行うときこれら他の病気がないかの検査も同時に行います。
よく行うものは、問診、血液検査、血圧測定です。
問診は、脱水になっている可能性がないかを特に聞くようにしています。
血液検査は、甲状腺ホルモン検査を行い甲状腺機能亢進症がないかを確認します。
血圧測定は、全身性高血圧がないかを確認します。
脱水、甲状腺機能亢進症、全身性高血圧では心エコー検査で肥大型心筋症のように見えることがあるからです。
ここでは、治療方法を決定するための情報集めを行います。
心エコー検査、血液検査、心電図測定を行います。
心エコー検査では、まず肥大型心筋症の特徴である『左心室の心臓の壁(筋肉)が分厚い』ということを確認します。
下の模式図の両矢印(↔️)のところです。心エコー検査でここを見て6mm以上の厚さであれば、肥大型心筋症を疑います。
※その後、他の心臓の筋肉が分厚くなる理由がなければ確定診断とします
さらに心エコー検査では、『左室流出路閉塞』というものがないかも確認します。
これは心臓の出口近くの壁が分厚くなることで心臓の出口が狭くなり、心臓の機能がさらに低下する状態です。(黄色丸)
正常な心臓との比較も載せておきます。
血液検査では、腎臓に異常がないかを確認します。
心電図検査では、猫に多い頻脈性の不整脈(心拍数が増えるタイプの不整脈)がないかを確認します。
心不全徴候とは、
元気・食欲がない、口を開けて呼吸する、失神する、呼吸困難などの症状です。
つまり、健康診断などで肥大型心筋症が見つかったけど普通に元気だよ!の時の治療内容です。
これも2パターンに分けると、
この場合「治療をしたほうが長生きしたよ」というデータがないので、3〜6ヶ月毎の再診を行い経過観察をすることが多いです。
ACE阻害薬は、優しい血管拡張薬で少し心臓の負担をとってくれて心臓の悪い変化も抑えれるかもしれない、という報告がありますが心臓が大きくなっている場合を除き私はあまり使わないです。
これも薬の予防的な使用のデータがないので無治療も一つの選択肢です。
私は左室流出路閉塞があり、且つ心拍数が早い場合や心臓が大きくなっている時はβ遮断薬(心拍数を下げる薬)を使うことがあります。
心拍数を下げることで、心臓はしっかり広がれるようになります。
(手拍子の説明を思い出してください^_^)
心臓が広がれるようになると、黄色の丸で示した狭くなっている部位も広がることができます。
そうすると心臓から血液が出やすくなり、心臓の負担が軽減します。
逆に、左室流出路閉塞がある時に不用意にACE阻害薬などの血圧を下げる薬は使わない方がいいんです。
血圧を下げると黄色の丸部分を流れる血流がさらに速くなります。
そうすると、黒い線で囲った僧帽弁の一部が心臓の壁側に吸い寄せられてさらに心臓の出口が狭くなるんです。
猫の肥大型心筋症において、心臓エコー検査をしっかりせずに「とりあえずACE阻害薬」というのは、時に状況を悪くするので気をつけるべきだと考えています。
次は心不全徴候のある場合について書いていきます。
これは、
①元気・食欲がない
②口を開けて呼吸する・失神する
③口を開けて呼吸する・呼吸困難
この3つに分けて、書いていこうと思います。
この場合は、前回説明した内容とほとんど同じで心臓エコー検査の結果に基づいて治療を行います。
◎心拍数が早い
⬇︎
β遮断薬などの心拍数を下げるお薬を使い、心臓がしっかり広がることができるようにします。
◎心臓機能が低下している
⬇︎
ピモベンダンという強心薬を使い、心臓の動きを良くします。
ただ左室流出路閉塞がある場合は、慎重に使用します。
「普段はある程度問題なく過ごしているが、運動時や興奮した時に口を開けて呼吸する。たまに失神するように倒れることもある。」
という内容の話を聞くことがあります。
この時は私は、「心拍数が上がると逆に心臓から出てくる血液量が減ってしまっているのでは?」と考えます。
そこで心臓エコー検査を行い、肥大型心筋症と左室流出路狭窄や心室中部狭窄を探します。
これらがあれば、心臓の心拍数を上げると逆に心臓から血液が出にくくなることがあるからです。
なので、これらがあればβ遮断薬などで心拍数を落とす治療を行います。
これは呼吸不全(呼吸がきちんとできていない状態)を疑う症状です。
肥大型心筋症の猫であれば、胸水や肺水腫の有無を確認します。
胸水がある
⬇︎
可能であれば、針を刺してできる限り胸水を抜きます。
ただあまり無理をすると、暴れて最悪急変することもあるので猫の状態で処置の実施や鎮静の必要性などを判断します。
肺水腫になっている
⬇︎
利尿剤と酸素吸入を行います。
また心機能低下や低血圧がある場合は、血圧を上げるお薬や心臓を動かす薬を使いますが状況によっては悪化することもあるので慎重に投与していきます。
血混じりの液体を吐き出すようになったら、状況によっては侵襲的陽圧換気法(IPPV)を行うこともあります。
侵襲的陽圧換気法とは、簡単にいうと時に麻酔薬も使い人工呼吸器に繋ぐやり方です。
これにより、高い酸素濃度での呼吸管理ができる、呼吸が苦しい状態から動物を解放できる(麻酔薬で意識を無くすため)などのメリットがあります。
そしてその時間を作っている間に、心臓や循環の状態を整えます。
デメリットは、半日〜と時間がかかる治療でしている間つきっきりの治療になるので、マンパワーのある状況でないとできないということかなと思います。
時に、肥大型心筋症の猫が急に後ろ足を痛がり引きずるようになることがあります。
これは『動脈血栓塞栓症』になっている可能性があります。ではこの動脈血栓塞栓症とは何なのでしょうか?
動脈血栓塞栓症とは、名前の通り動脈に血栓ができそこから下の血流が低下・消失することにより起こる病気です。
猫の場合は、動脈血栓塞栓症の69%が心臓の病気に関連して発生したという報告もあり、肥大型心筋症と合併することの多い病気でもあります。
この病気は猫の後ろ足に発生することが多く、片足もしくは両足に発症することがあります。
症状は急激で強い痛みや麻痺などです。また、足先は青白く冷たくなり、脈も取れなくなります。
また肥大型心筋症が原因の場合、同時に肺水腫など心臓の状態悪化も起こることが多いです。
先ほどあげた症状の猫が来た場合、緊急対応が必要になります。
必要な処置は、
・状態の確認(原因確認も)
・痛みへの治療
・心筋症への治療(心臓が原因の場合)
・血栓悪化の予防
になります。
状態の確認は、発症してからの時間、心臓や他の病気がないか、再灌流障害のリスク確認などを行います。
※再灌流障害とは、滞った血液に様々な毒性物質が溜まり、時間が経ってから再びそれらが全身血流に戻ることで、命に関わる臓器障害を起こすことです。
痛みへの治療は、麻薬や非麻薬性の痛み止めを使います。
痛みの管理は、呼吸状態の正確な評価や血圧の管理のためにも有用ですし、痛みを放置するのは動物福祉的にもよくない事です。
心筋症への治療は、前回の内容とほとんど同じですのでここでは割愛します。
血栓予防は、血栓が大きくなったり別の血栓が他の臓器障害を起こさないようにするために行います。ヘパリンなどを使います。
できた血栓に対しての治療は、
『血栓溶解療法(血栓を薬で溶かす)』
『血栓摘出術(手術で血栓を摘出する)』
『保存療法(血栓に直接的な治療はしない)』
などがあり、今のところどれがいいというのは言えないと思っています。
が、発症して時間がたった状態で血栓溶解などを行うと再灌流障害により急変するリスクもあるため、治療方針の決定は慎重に行うべきだと考えています。
血栓症になる前に、心臓エコー検査で心臓内の血流が滞留しているような血栓症のリスクになる異常が見つかった場合、飲み薬によるよる抗血栓療法を行います。
この場合は、クロピドグレルなどの飲み薬を使います。
※心臓エコー検査で、心臓の部屋が大きくなっているだけで血栓症のリスクが高いと判断し、抗血栓療法をスタートする場合もあります。
猫の肥大型心筋症の話はこれで終わりです。
たくさんのことを書かせていただきましたが、結構難しかったと思います。
各章の最後に要点をまとめた一文があるので、そこだけでも覚えていてもらえたらと思います。^_^
ESSE動物病院 院長 福間
大阪府吹田市青山台2−1−15(北千里駅から徒歩8分)
駐車場は10台以上あります。(豊中市、箕面市、茨木市、摂津市からも車で来院しやすいです)
皮膚科(アレルギー、アトピーなど)、腫瘍科(がん)、循環器科(心臓病、腎臓病)、外科手術(麻酔管理と痛みの管理をしっかり行います)を得意としています
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