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大阪府吹田市・豊中市・箕面市の皆さん。こんにちは。
院長の福間です。
今回のお題は、「猫の乳腺腫瘍」です。
猫の乳腺腫瘍は、その概要や治療の選択を行う際に判断に役立つデータがいくつも出ています。
今回はそれらのデータ(=数字)を通して、猫の乳腺腫瘍について説明していこうと思います。
人の乳腺腫瘍と同様に、猫の乳腺腫瘍には良性と悪性があります。
猫の乳腺腫瘍の場合は、
良性 0.6%
悪性 80%
です。
(Veterinary Oncology Vol.2 2015より)
猫の乳腺腫瘍の場合は、圧倒的に悪性の場合が多いということがわかります。
その差、なんと120倍です。
猫の乳腺腫瘍は、摘出しないと良性・悪性の確定診断は出ないですが、
この数字を覚えておいていただくと猫のお腹や胸にしこりが触れた際に急いで病院に相談に行ってもらえるんじゃないでしょうか。
猫の乳腺癌(悪性の乳腺腫瘍)の平均発症年齢は12歳です。
12歳というと、「結構な年だな」と思う人も少なくないかもしれません。
ただ、私自身の経験では乳腺腫瘍の相談に来られる方は外科手術に進む方が多いと思います。
14歳、15歳で手術をすることも少なくありません。
そもそも癌は高齢になる程なりやすい病気でもあるので、年齢だけで治療を諦めるなくてもいいと考えています。
猫の乳腺癌の発生率は、早期の不妊手術により減らすことができます。
一つの論文によると
6ヶ月齢以前の手術 91%のリスク低下
6〜12ヶ月齢の手術 86%のリスク低下
という内容が報告されています。
(Association between Ovarihysterectomy and Feline Mammary Carcinoma. Overley B, JVIM, 2005 より)
早期の不妊手術は、乳腺癌の有効な予防手段と考えていいでしょう。
猫の乳腺がんは、発見され治療を検討する時点での腫瘍の大きさが重要になります。
これは一概には言えないのですが、
2cm未満の時点で手術 中央生存値が1年を越える報告が多い
2cm以上の時点で手術 中央生存値が1年未満の報告が多い
(中央生存値:100頭同じ病気の症例がいて、そのうち50頭が亡くなるタイミングの数値。残りの50頭はこれよりも長生きするので、中央生存値≠寿命)
これは2cm未満だから安心していい、2cmを超えていたら絶望的だ、というように解釈するのは間違いで、
「乳腺腫瘍の治療開始時期は、早い方がいい」
ただこれだけを言っている数字だと考えています。
猫の乳腺癌がリンパ節に転移しやすいのは、人の乳癌と同様かと思います。
そして、リンパ節に転移するような乳腺癌は転移していない乳腺癌と比べて、その後の経過が厳しくなる確率が高いことがわかっています。
一つの報告では、
リンパ節転移なし 中央生存値 13ヶ月
リンパ節転移あり 中央生存値 6ヶ月
と、リンパ節転移がある方が短命になる傾向があります。
(Grade is an independent prognostic factor for feline mammary carcinomas. Seixas F, Vet J, 2011 より)
実際の生存曲線が下記のものになります。
縦軸が癌患者の数で、横軸が時間になります。時間が経てば(右に進むと)患者の数が減っていく(グラフが下がってくる)グラフになります。
リンパ節転移のある患者の方が早く亡くなっていることが、グラフから読み取れるかと思います。
では、「リンパ節転移があれば諦めろ」という話かというとそういうわけではありません。
別の論文では、リンパ節転移があっても積極的な治療(リンパ節郭清(切除)や両側の乳腺切除)で32%は転移を起こさなかった、と報告しているものもあります。
(Association of surgical approach with complication rate, progression-free survival time, and disease-specific survival time in cats with mammary adenocarcinoma. Gemignani F, JAVMA, 2018 より)
ここでの結論としては、
「リンパ節転移は、その後の治療方針決定の際に重要な項目になるので、手術の際にリンパ節切除もしっかり行う」
「リンパ節切除は、リンパ節転移の際にも転移した腫瘍細胞を減らすことによる治療効果も期待できる」
ということだと思います。
乳腺癌を発症してしまった場合に、治療のオプションとして乳腺癌が発生していない方の乳腺も切除することがあります。
これは、結論としては両側の乳腺を切除した方がその後の再発のリスクを下げることができ、長生きにつながったという報告があるからです。
実際の数字としては、
両側の乳腺切除 無増悪生存期間中央値:18ヶ月
片側の乳腺切除 無増悪生存期間中央値:9.6ヶ月
という報告があります。
(Association of surgical approach with complication rate, progression-free survival time, and disease-specific survival time in cats with mammary adenocarcinoma. Gemignani F, JAVMA, 2018 より)
実際のグラフは以下の通りで、
先ほどと同様に、縦軸が悪化せずに過ごせた数で、横軸がその日数です。
両側の乳腺切除を行った方が、片側のみのものよりも悪化せずに長生きできていることがわかります。
ただ両側の乳腺を同時に切除すると、傷が開いたり呼吸しづらくなるなどの合併症の発生率が大きく上がるともされていて、
当院ではご家族のご希望がない限りは、両側の乳腺切除を行う場合も、
片側切除 → 1ヶ月後に反対側を切除
とすることが多いです。
絶対両側取るべきかと聞かれると、猫の負担やご家族の負担も考えると、全ての状況で「すべき」とは言えないんじゃないかと考えています。
一度目の手術を終えたのちに、しっかり相談をする場合が多いかと思います。
最後に、気になる抗がん剤に触れようと思います。
これは多くのケースで「はい」という答えになります。
手術後の抗がん剤治療を考える状況としては、
・片側のみの切除であること
・リンパ節転移が認められること
・腫瘍のサイズが3cm以上であること
を自分としての基準にしています。
今回は、自分の思考も整理する目的でもこのように数字という客観的な指標を使って猫の乳腺がんについて説明させてもらいました。
へー、そうなんだ、と参考にしていただけたり、今実際に愛猫の治療に悩んでいる方のお力になれる情報であれば幸いです。
また実際の疑問や相談などありましたら、当院までご相談ください。
ESSE動物病院 院長 福間
大阪府吹田市青山台2−1−15(北千里駅から徒歩8分)
駐車場は10台以上あります。(豊中市、箕面市、茨木市、摂津市からも車で来院しやすいです)
皮膚科(アレルギー、アトピーなど)、腫瘍科(がん)、循環器科(心臓病、腎臓病)、外科手術(麻酔管理と痛みの管理をしっかり行います)を得意としています
健康診断、予防接種、フィラリア・ノミダニ予防、避妊・去勢手術も行います。ご相談ください