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大阪府吹田市・豊中市・箕面市の皆さん。こんにちは。
院長の福間です。
腫瘍科認定医 Ⅰ 種1次試験の結果は残念ながらダメでした。
ただ引き続き勉強を続けて、今年の試験に挑もうと思います。
だからというわけではないのですが、今回は皮膚科の話をしようと思います。
今回は、犬の毛が生えにくくなる病気である「脱毛症X」について書いていこうと思います。
そもそも脱毛ってなんで起こるの?
脱毛症X(毛周期停止)の話にいく前に、そもそも脱毛はなぜ起こるのか?を少し書いていきます。
脱毛は色々な要因で起こります。
私たちがよく遭遇するケースでは、炎症に伴う脱毛です。
これは皮膚の炎症により毛根周囲のフケがたくさん作られる結果毛が抜けてしまったり、炎症のシグナル自体が毛根を抜ける方向に変化させてしまうためです。
ですので、細菌性皮膚炎やアトピー性皮膚炎などが起こると、炎症が起こった部分が真っ赤になってその毛が抜けるということが起こります。
また炎症を伴わない脱毛もあり、よくあるのは内分泌(ホルモン)疾患による脱毛です。
これは、甲状腺機能低下症やクッシング症候群があり、これらの病気は甲状腺ホルモンやコルチゾールといったホルモン過剰が起こる結果、毛が生え変わるサイクルが止まってしまう結果起こる脱毛症です。
上記写真のように、
毛には成長を続ける毛である「成長期毛」と、抜けるのを待つ毛である「休止期毛」があります。
内分泌疾患や脱毛症X(毛周期停止)ではこの休止期毛が中心となる、休止期毛性の脱毛パターンを示します。
初っ端から難しい内容ですみません。
この毛の種類につながる身近な話としては、犬は犬種によってこの成長期毛と休止期毛の割合が違うと言われています。
例えばトイプードルなどの抜け毛が少ないと言われている犬種は成長期毛の割合が圧倒的に多いです。
(だからこそ毛が抜けにくい反面、カットをしないといけないです。)
逆に抜け毛が多い犬種は、成長期毛 → 休止期毛 → 抜ける というサイクルで毛が入れ替わっているので、休止期毛も一定存在します。
抜け毛の多いか少ないかの違いは、この毛周期が背景にあります。
脱毛症X(毛周期停止)って何?
脱毛症は正式名称は「毛周期停止」と言います。教科書的には、毛周期停止が正しいのですが馴染みがありインパクトもある名前である「脱毛症X」を今回はメインに添えて、カッコづけで毛周期停止と書かせていただきます。
脱毛症X(毛周期停止)は、明らかな内分泌疾患(甲状腺機能低下症やクッシング症候群など)がない、かつ炎症を伴わない脱毛症のことを言います。
難しいですね。。。もう少し簡単にいうと、他の病気がないのに脱毛だけが起こる状態と考えていただいてもいいかと思います。
じゃあ原因は何なのか?という疑問が出るかと思いますが、その原因がはっきりしていないのがこの病気の特徴になります。
ですので、不明の意味として「X」を使った脱毛症Xという名前がついたとされています。
今は、本来は動いている毛周期が止まっているから脱毛するということで、「毛周期停止」という名前が正式なものとなっています。
脱毛症X(毛周期停止)ってどんな犬種がなるの?
脱毛症X(毛周期停止)にはなりやすい犬種があります。
まず代表的なものは、ポメラニアンです。脱毛症X(毛周期停止)といえば、ポメラニアンというくらい多いと思います。
次に多いのはトイプードルです。人気犬種でもあってか、ポメラニアンの次に多いです。
脱毛症X(毛周期停止)の特徴は?
脱毛症X(毛周期停止)は症状の出方に特徴があります。
それは背中やお腹の胴体の部分とお尻、尻尾に脱毛の症状が出やすく、頭や顔、足先には脱毛が基本的にみられないことです。
また脱毛症X(毛周期停止)は炎症を基本的に伴わない皮膚病ですので、痒みは通常ありません。
ですので、ポメラニアンやトイプードルの子で痒みがない胴体部分の脱毛が見られた際は、この脱毛症X(毛周期停止)を疑う必要があります。
脱毛症X(毛周期停止)の診断は?
次は、脱毛症X(毛周期停止)の診断についてです。
脱毛症X(毛周期停止)は、基本的に症状で疑い、他の異常を否定して行う除外診断が主になります。
具体的な当院の診断の流れは以下の通りになります。
①特徴的な臨床症状(胴体部分の脱毛、痒みがない、カサブタなどがない・少ない、太い毛(主毛)が少なく細い毛(副毛)が多い、若いなど)
※①’ 他の皮膚疾患が重なっていることもあるので、他の症状が見られる場合はまずそちらの検査や治療を優先する。
②皮膚検査を行い、細菌・カビ・ダニなどの感染性皮膚病がないことを確認する。休止期毛が多いことを確認する。
③他の内分泌疾患がないことを確認する。(血液検査やエコー検査を行います。)
④皮膚生検を行い、他の皮膚疾患がないことと皮膚の状態が脱毛症X(毛周期停止)を疑う状況であることを確認する。【ここで確定診断となります】
④’皮膚生検を行わずに、臨床的な状況を持って『仮診断』とする。
※皮膚生検は、局所麻酔で痛みを感じなくした後に、皮膚を一部切り取り縫う検査であるため、検査の実施を強要することはできないと考えています。
基本的にはこんな流れで進めていくのですが、一番難しいのは①と①’のところだと思います。
脱毛症X(毛周期停止)は、毛が抜けることでフケっぽくなったりカサブタができて細菌性皮膚炎が出ることもあり、他の皮膚疾患を併発しやすい側面もあります。
他の皮膚疾患にも対処しつつ、それだけで説明がつかない皮膚の見え方に対して脱毛症X(毛周期停止)を疑い続けることが診断のコツだと考えています。
脱毛症X(毛周期停止)の治療は?
次は脱毛症X(毛周期停止)の治療を説明していきます。
自分の家の子が脱毛症X(毛周期停止)の場合は、一番気になるところですね。
先にお話ししておくと、脱毛症X(毛周期停止)に100%効く治療というのは存在しません。
これはこの病気の本質がまだ解明されていないこと、そして原因がおそらく1つではなく多因子であると考えられているからです。
ですので、今から書いていく治療を順番に変更をかけながら数ヶ月おきに効果判定を行い、治療を進めていきます。
先に治療前と後の写真もお見せします。
この子は既に不妊手術をしてい他ので、BとCの治療を2ヶ月、そこにDの治療を追加して5ヶ月後の結果です。
一番最初に検討するのが、不妊・去勢手術です。
というのも、脱毛症X(毛周期停止)は性ホルモンが関与している可能性が報告されているからです。
もちろんこれは全ての脱毛症X(毛周期停止)の患者さんがそうというわけではないと思うのですが、
生殖器系の病気の予防にもなるのと、これで反応すれば投薬などが必要なくなるので、まず最初に不妊・去勢手術を提案します。
ただ、当院に脱毛症X(毛周期停止)のセカンドオピニオンで来られる方はほぼ100%この手術を既におこなっている方が多いので、
実際に提案したことはほとんどないです。
毛が生える下地作りとして毛や皮膚に必要な栄養素を中心に追加します。
皮膚血流の改善効果を期待してビタミンEと、毛形成を促すためにL-システインを用います。
あとは、皮膚にいい療法食に変更いただくこともあります。
嬉しいことにこれだけで毛が生えてくる子も一定います。
次に抗酸化や毛形成促進を期待して、それらの有効成分が含まれているサプリメントを使っていきます。
これらは副作用が少ない分次にくるお薬より先行して使うことが多いです。
また治療を早く進めたい方は、栄養療法と並行して開始することもあります。
アンドロゲンとは男性ホルモンの一つです。
このお薬は、通常は「前立腺肥大症」に対して使用するお薬です。
脱毛症X(毛周期停止)にこのお薬を使うと、毛が生えてくる子が一定います。
おそらくそういった子は、副腎などの臓器から産生される男性ホルモンが毛が抜けるようになる原因に関連しているんだと考えられます。
このお薬は、基本的に用法用量を守って使用すれば副作用は少ないので使いやすいお薬にもなります。
このお薬は、通常「副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)」に使うお薬です。
コレステロールからいろんなステロイドホルモンが合成されるのですが、これらを赤色の線の部分で合成阻害し
そこから先のホルモンが合成されにくくするお薬です。
なので、先ほど出てきたアンドロゲン作用を起こすテストステロンなどの合成も阻害します。
このお薬も種々のホルモンを阻害することで、脱毛症X(毛周期停止)の患者で毛が生えてくる子が一定います。
有効な治療はコレだけではありません。
これは基礎の話にもなりますが、毛が薄いと外からの刺激を受けやすい結果フケ症になってしまうこともあります。
その際に皮膚表面の環境を整えるために、フケ症用の薬用シャンプーを用いた薬浴も定期的に行います。
まずはそもそもの皮膚ケアを怠ってはいけないということです。
またサイトポイントというアトピー性皮膚炎の痒み止めの注射も毛が生えたという話を聞いたことがあります。
まとめ
脱毛症X(毛周期停止)の話はいかがだったでしょうか?
毛が抜けるだけで命には関わる病気ではありませんが、毛が抜けることで皮膚も弱くなり時に他の皮膚病・痒みの症状につながることがあります。
そうなると、その子のQOL(生活の質)は下がりますし、そのご家族のQOLも下がります。
たかが毛かもしれませんし、時にされど毛かもしれません。
脱毛症X(毛周期停止)の診断や治療は難しいからこそ、私たちもしっかりと見落としなく診断をした上での順序だてた治療をしていかないといけません。
このお話が脱毛で悩んでいるご家族の力に少しでもなれば幸いです。
ESSE動物病院 院長 福間
大阪府吹田市青山台2−1−15(北千里駅から徒歩8分)
駐車場は10台以上あります。(豊中市、箕面市、茨木市、摂津市からも車で来院しやすいです)
皮膚科(アレルギー、アトピーなど)、腫瘍科(がん)、循環器科(心臓病、腎臓病)、外科手術(麻酔管理と痛みの管理をしっかり行います)を得意としています
健康診断、予防接種、フィラリア・ノミダニ予防、避妊・去勢手術も行います。ご相談ください