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大阪府吹田市・豊中市・箕面市の皆さん。こんにちは。
院長の福間です。
前回の投稿からだいぶ時間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
夏のイベントや時間外手術が多かったり、認定医試験の勉強もあってなどなかなか余裕がありませんでしたが、
先日その認定医試験が終わったのでちょっと時間と気持ちの余裕ができたので、早速その余裕を使って書いていこうと思います。
これからの投稿のお題は全て今年の腫瘍認定医試験1種の試験に出てきた病気を取り上げようと思います。
試験で扱う病気はどんなものなのか、試験を受けない方もへえーと思ってもらえるでしょうか。
内容も少し深いものになりますが、その分読み応えはあるかと思いますのでよろしくお願いします。
最初のお題は犬のリンパ腫についてです。
リンパ腫とはリンパ系組織から発生する腫瘍です。
この腫瘍の特徴の一つとしては、リンパ節などのリンパ系組織からはもちろん、肝臓、脾臓、腎臓、心臓、脳、皮膚など様々な組織に発生することです。
ですので一言でリンパ腫と言っても、どこにできているものかによっても対応や予後(今後の予測)は大きく変わってきます。
通常リンパ腫は悪性腫瘍になりますが、最近は進行の遅い低悪性度リンパ腫なども知られるようになりその種類(大細胞、小細胞、LGLなど)によっても、また対応や予後が変わってきます。
犬に一番多いリンパ腫は、体の表面のリンパ節が複数腫れる「多中心型リンパ腫」です。
体の表面にある、下顎リンパ節(顎下のリンパ節)、浅頸リンパ節(肩関節の近くのリンパ節)、腋窩リンパ節(腋のリンパ節)、鼠径リンパ節(内股のリンパ節)、膝窩リンパ節(膝裏のリンパ節)があり、多中心型リンパ腫の時はこれらの複数もしくは全てのリンパ節が腫れます。
多中心型リンパ腫は、先に書いたように体の表面の複数のリンパ節が腫れるリンパ腫です。
またお腹の中や胸の中にもリンパ節はあり、エコー検査で体の表面にないリンパ節の腫れが確認されることもあります。
リンパ節が腫れているのに、痛みはないのがリンパ腫によるリンパ節の腫れの特徴でもあります。
臨床症状は、初期の場合は何も示さない無症状の子もいますが、病状が進んでくると食欲の低下、元気の低下、嘔吐、下痢、痩せるなどの症状が見られます。
また腫瘍随伴症候群という、腫瘍が原因なのですが腫瘍とは別の病気が出てくる時もあります。
例えば、免疫介在性貧血、高カルシウム血症、低血糖などです。
これらの異常があっても体調の変化が出ることがあるので、腫瘍の発見に合わせてこれらの異常があるかも確認する必要があります。
多中心型リンパ腫を疑った場合、多くは「細胞診検査(FNA)」を行うことが多いです。
これは腫れているリンパ節に採血で使うほどの細い針を刺して、リンパ節の中にある腫瘍細胞の一部を採って調べる検査です。
長所は、動物側の負担が少なく短時間で行えることで、短所は針先程度の細胞しかとれないので、あくまで一部の細胞から推測する検査だということです。
細胞診検査は院内での判断と、外部の先生に委託し判断いただくことと両方行うことが多いです。
ただ明らかなものの場合や治療の判断を急ぐ場合は、院内での判断で動くこともあります。
実際の顕微鏡画像も載せておきます。
(これらはわかりやすいものをピックアップしていますが、細胞診検査は多少のバリエーションは当たり前なので結構難しいなと思っています)
またこの細胞診検査を行うことと同時並行で、「リンパ球クローナリティ検査」を同時に行うこともあります。
この検査は、通常のリンパ球が様々な特徴を持っているのに対して、腫瘍性のリンパ球は一つのリンパ球が異常に増殖しているので同一の特徴を持っていることを利用した検査です。
これによりリンパ腫の補助診断ができることと、リンパ腫の種類の一つである「T細胞性」「B細胞性」の判別を行うこともあります。
犬の多中心型リンパ腫のほとんどがB細胞性であるので、この検査が必須かと聞かれると迷いますが、複数の検査を行い同様の結果が出ればより明確な判断ができるという点で、実施する意味のある検査だと考えています。
では、多中心型リンパ腫の診断がついた後、どのような治療選択肢があるのでしょうか?
通常、多中心型リンパ腫に対しては化学療法が有効です。
最も有名なやり方としては、「UW-25(ユーダブリュー25)」というものがあります。
これはCHOPベースプロトコル(シクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロンを使用したやり方)の一つで、それまでのCHOPベースの治療に明確な終わりがなかったのに対して、2002年にウィスコンシン大学がCHOPベースの抗がん剤を投与量や頻度を調整し25週でやり切るUW-25の治療プロトコルを発表しました。
これが今でも使われている一つの理由としては、犬の多中心型リンパ腫に対してのUW-25の寛解率(腫瘍が検査上確認できなくなる確率)は94.2%、全生存期間の中央値(この検査に組み込んだ患者の半数がちょうど亡くなったタイミング)は397日と、高い有効性と治療効果が同時に報告されたからです。
当院でも初期治療としては、UW-25を行い治療反応性や副作用の程度を見ながら薬の量や種類の調整が必要か判断し、継続可能と判断すればご家族との相談のもと25週のプロトコルをやり切る形で治療を進めます。
25週は終わりがあるものの決して短いとは言えないので、19週のプロトコルに変更しているUW-19なども選択肢にあげることもあります。
ただ抗がん剤治療のやり方というものはありますが、一番大事なことは必要以上にそのやり方に縛られずに常に動物とご家族にとってのベストな治療が何かを考え続けることだと思っています。一般診療ではもちろんのこと、腫瘍診療や抗がん剤治療においても一番重要なことは動物やご家族とのコミュニケーションです。
今回は犬の多中心型リンパ腫について書かせていただきました。
書き終わって振り返ると、一般的な内容を書く形になったかと思います。
初期の時に単一のリンパ節が腫れた時の対処は?
抗がん剤治療が効かなくなった時にレスキュー療法は?
抗がん剤治療中の副作用に対しての対応は?
など他にも触れたい内容はあったのですが、今回はこれで終わりにさせていただきます。
次は皮膚肥満細胞腫や口の腫瘍を書ければと考えています。
よろしくお願いします。
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ESSE動物病院 院長 福間
大阪府吹田市青山台2−1−15(北千里駅から徒歩8分)
駐車場は10台以上あります。(豊中市、箕面市、茨木市、摂津市からも車で来院しやすいです)
皮膚科(アレルギー、アトピーなど)、腫瘍科(がん)、循環器科(心臓病、腎臓病)、外科手術(麻酔管理と痛みの管理をしっかり行います)を得意としています
健康診断、予防接種、フィラリア・ノミダニ予防、避妊・去勢手術も行います。ご相談ください