ブログ
Blog
ブログ
Blog
大阪府吹田市・豊中市・箕面市の皆さん。こんにちは。
院長の福間です。
早いものでもう4月ですね。今日は桜が本当に綺麗に咲いて、この雨で散っていくのが本当に残念です。
当院は今年の春に獣医師と看護師が増えて、総勢12名になりました。
すごく魅力と能力の溢れるチームメイトで、彼らの力を最大限生かしきる職場であるように、院長としてもやる気にみなぎっています。
そして医療においても、新しい腫瘍治療の導入や外科の認定医取得、耳科の設備拡充など、いろいろ医療技術のアップグレードをワクワクしながら進めております。
これらのやる気が5月病に負けないように頑張っていきます!!
さて前置きはこれくらいにして、
今回は猫のFIP(猫伝染性腹膜炎:Feline Infectious Peritonitis)について書いていこうと思います。
FIPとは?
まずFIPとはどんな病気なのでしょうか?
FIPは、変異した猫コロナウイルスによって起こる致死率の高いウイルス感染症です。
(※猫コロナウイルスの変異に関しては、後で説明します。)
FIPを発症した猫は、発熱、元気・食欲の低下、嘔吐、下痢、体重減少、胸水、腹水、黄疸(粘膜などが黄色くなる異常)、神経症状(発作や歩行異常など)といった、様々な全身性の症状が見られます。
また局所の病変としては、目の色の変化、目の表面の混濁、皮膚炎、皮膚の脆弱化などが見られることもあります。
ウェットタイプやドライタイプという言い方もありますが、その話は後の症状のところで少し補足させていただきます。
FIPウイルスって何?
ではFIPを起こすFIPウイルスとはそもそも何なのかを説明します。
ここはあまり面白くないところかもしれませんが、この後の「どうやって感染するのか?」などの話につながる重要なところになります。
FIPウイルスは、通常の猫コロナウイルス(以下FCoVと表記)のスパイクタンパクというものが変異したウイルスです。
FCoVは、多くの猫が感染している珍しくないウイルスになります。
FCoVは、大腸にのみ感染して下痢などの消化器症状を起こすことがあります。(多くが軽度〜無症状)
そして、FCoV感染猫の糞便中にFCoVが排泄され、それが別の猫に経口感染することでFCoVは伝染していきます。
飼育猫の40%未満がFCoVに感染しており、特に多頭飼育施設の猫では90%以上が感染しているという報告もあります。
そんなFCoVが、猫の体の中で遺伝子変異を起こして発生するのがFIPウイルスとされています。
つまり、FIPウイルスは直接伝播するウイルスではなく、体内でFCoVの変異により発生するウイルスなんです。
FIPウイルスはどうやって感染するのか?なりうやすい状況は?
FIPウイルスはどのように感染するのか、これは一つ前に書かせていただきましたが、
FIPウイルスは直接伝播するウイルスではなく、体内でFCoVの変異により発生するウイルスです。
そしてFCoVは他の猫への感染が報告されていますが、FIPウイルスは体外への排出が非常に少ないため基本的にはFIPウイルス自体が他の猫に感染することはないとされています。
では、今の所報告されているFIPを発症しやすい状況(FCoVがFIPウイルスに変異しやすい状況)はどのようなものがあるのでしょうか?考えられている状況を書いていこうと思います。
①生活場所にFCoV感染猫が存在する
これは、FCoVに感染しなければFIPに発症することはないので、FCoV感染猫がいなくて当猫もFCoVに感染していなければFIPは発症しないと考えます。逆に、FCoV感染猫がいれば必然的にFCoV感染のリスクにさらされるため、FIP発症のリスクも上がると考えます。
②多頭飼育環境である
多頭飼育環境では暴露されるFCoVのウイルス量も必然的に多くなる可能性が高いため、単純なFCoV感染猫との同居よりもFCoVの感染のリスクがより高まります。また、多頭飼育環境ではFIP発症のリスクが高まるので、FIPウイルスは猫同士で感染すると間違った情報が信じられてきたのはこういった背景があったためです。
(※ただ、この内容は決して多頭飼育自体を否定するものではないと思いますし、私自身にその意図がないことは改めてここで書かせていただきます。)
③年齢:若い方が発症しやすい
これは理解しやすいことかもしれませんが、実際にFIP発症猫の60%は2歳齢未満であったと報告されています。
この背景には、免疫の差や子猫は必然的に多頭飼育になる状況であること。そして1歳未満の子猫のウイルス排泄量が、成猫の2.5倍だったとする報告もあり、これらによって若い猫のFIP発症が多いのだと考えられます。
④品種:純血の方が発症しやすい
品種として、FIPを発症しやすい猫種は特定されていませんが、純血の方が雑種の猫と比較してFIPを発症しやすいことが報告されています。
FIPの症状は?
最初にFIPの症状は多岐にわたることを書かせていただきましたが、改めてFIPの症状を確認していこうと思います。
①全身的な症状
元気の低下、食欲の低下、体重減少、発熱、黄疸などがあります。
②お腹や胸などの症状
お腹が膨らむ(腹水による変化)、お腹の中にしこりが触れる(リンパ節の腫れや腹部臓器の腫れによる)、嘔吐や下痢、呼吸が早い(胸水による)
③神経症状、目の症状
けいれん発作、ふらつきなどの歩行異常、目の充血、目の混濁、虹彩の色の変化
④その他
皮膚の脆弱化
FIPの症状によってウェットタイプやドライタイプという言い方もあり、これらは胸水や腹水などの有無による区別をした考え方ですが、
2022年のISFM(国際猫医学会)のガイドラインではこの病型の区別がなく、病状の進行度や検査の限界によるものが影響していると考えています。
なので、ウェットタイプ・ドライタイプという区別よりは、FIPは多様な症状を示すという形で理解することがより適切かと考えています。
FIPの診断は?
では次に、FIPはどのように診断するかを説明しようと思います。
まず、FIPの診断は2段階で進めていきます。
最初はFIPを疑う症状や検査所見があるか?です。
FIPは、とても多様な症状を示し全てのFIP猫が同様の検査所見であるということはないので、
一つ前に書いた「FIPの症状」を含めて総合的な判断を行います。
その上で、FIPが疑わしいとなった時に針の検査や組織の一部を採取し、ウイルス検査を行うことで確定診断をすることができます。
これらをもう少し詳しく説明していきます。
①症状と一般的な検査の所見
まず、FIPを想定するような症状が出ているかを問診や身体検査で確認します。
そして、次に血液検査やエコー検査などでFIPに合致する所見がより多く得られれば、FIPをさらに疑い次のウイルス検査に進んでいきます。
◎血液検査
貧血、リンパ球減少、血小板減少、高グロブリン血症、高ビリルビン血症、炎症マーカーの上昇(α1-AGPやSAA)
◎エコー検査
腹水・胸水の出現、リンパ節の腫れ、腸炎所見、肝臓や腎臓の不整な腫れ
②ウイルス抗原検査
症状や検査所見でFIPが疑わしい場合に、次にウイルス抗原検査に進みます。
ウイルス抗原検査では、腹水などの液体か病変部の組織を採取する必要があります。
腹水や胸水が多量に溜まっている猫では、腹水を採取しウイルス抗原検査を行うことも可能です。
腹水などが溜まっていない猫では、腫れている病変部(リンパ節や肝臓、腎臓など)から細胞を採取して、
その検体を用いてウイルス抗原検査を行いウイルスが検出された場合、FIPの確定診断となります。
(※この時、厳密にはFIPウイルスを見分けているのではなく、FCoVがいるかを確認しています。
本来通常のFCoVは存在するはずのない場所にFCoVがいるということでFIPであるという判断をしています。)
ちなみに以前は、FIPの診断に抗FCoV抗体検査を用いることもありましたが、
FIPの猫と健康な猫で抗FCoV抗体の数値に差がなかったとする報告もあり、今ではFIPの診断には使えないとされています。
抗FCoV抗体検査の使い所は、FIPの発症リスクを評価する場合だと考えています。
診断は重要なところなので簡単にまとめると、
症状や一般検査の所見からFIPを疑い、細胞を採取しウイルス抗原検査で陽性であれば確定診断します。
FIPの治療は?
次ににFIPの治療について書いていきます。
FIPの治療は、ここ数年で大きく変わってきました。
以前は治らないとされていた病気でしたが、今では複数の治療薬がありFIPが治る時代になっています。
それらの中心となる抗ウイルス薬を中心に書いていきます。
これらは、FIPに対して最初に使われ出した抗ウイルス薬かと思います。
作用機序としては、ウイルスのRNA合成を止めることで、ウイルス増殖を抑制する働きがあります。
初期は中国のMUTIANなどが出ていましたが未承認薬であることや有効成分の含有量が不明瞭など、あまりいい話を聞かなかった薬でもあります。
今はBOVA UK社のGS-441524とレムデシビルがあり、これらは英国において動物医薬品と同等の扱いを受けており、獣医師のみが購入できる薬となっています。
ただ、製剤の価格はやはり高いことや輸入が必要なことから、当院では今の所導入できていない治療になります。
この薬は最近FIPの治療によく使われる様になった薬、
人の新型コロナ感染症への飲み薬として使われるお薬です。
こちらもGS製剤と同様にヌクレオシドアナログで、ウイルスの増殖を抑制する効果があります。
実際にFIPへの有効性も確認されており、薬の費用も海外ジェネリック薬を使用すれば
今まで1/3 ~ 1/5の金額で治療をすることができます。
今まで薬を扱う上で問題であった費用面の問題も、こちらの薬であれば減らすことができると考えています。
上の写真は、モルヌピラビルで実際に治療したFIPの子のリンパ節の変化になります。
リンパ節の腫れが改善するとともに、元気や食欲、嘔吐、下痢などの症状も改善していきました。
モルヌピラビルでの治療例も報告されています。
Molnupiravir treatment of 18 cats with feline infectious peritonitis: A case series
もちろんGS製剤同様に全てのFIPの症例に効くわけではないのと、
飲み薬しかないので重症の子に関しては注射薬があるレムデシビルとの併用治療も有用だと考えます。
・インターフェロン:古くから使われていますが、治療効果に関して科学的な実証は乏しいと考えます。
・ステロイド:FIPによる全身性の炎症を抑えるために用います。ステロイドには免疫抑制作用があるため、ウイルスの増殖を助長するという点で使用しない獣医師もいますが、新型コロナ感染症の患者にステロイドと抗ウイルス薬を併用することで生存率が改善したという報告もあり、状況によっては併用も検討すべきなのかと考えています。
まとめ
今回はFIPに関してと、現在どんどん新しくなっていく治療法について説明させていただきました。
今までは不治の病であり、それについて問題も抱える薬が出回る中で苦渋の決断を獣医師やそのご家族がしてきたと思います。
ただ今は、国内承認薬や海外での承認薬が手に入り治療ができる時代になってきました。
もちろん、それらの治療をしても亡くなってしまう猫ちゃんはいますが、
治療を望むFIPの子が病院に来られた時に、「FIPの治療は、、、」と言葉を濁さなくて良くなったこと、治らない病の宣告ではなくなったこと、これらは私たち動物病院関係者にとっても大変嬉しい変化です。
ESSE動物病院 院長 福間
大阪府吹田市青山台2−1−15(北千里駅から徒歩8分)
駐車場は10台以上あります。(豊中市、箕面市、茨木市、摂津市からも車で来院しやすいです)
皮膚科(アレルギー、アトピーなど)、腫瘍科(がん)、循環器科(心臓病、腎臓病)、外科手術(麻酔管理と痛みの管理をしっかり行います)を得意としています
健康診断、予防接種、フィラリア・ノミダニ予防、避妊・去勢手術も行います。ご相談ください